第六夜8月26日

ディレクターが語る、「今だから言えること」


先週にこの記事を載せようと思ったのだが、サンフランシスコの『FATAL FRAME V THE TORMENTED』(アメリカ版『零〜刺青の聲』)のイベントでウィンチェスターハウスに行っていたので、一週ずれてしまった。もしかして楽しみにしていた人もいるかもしれないので、お詫びします。

ウィンチェスターハウスは有名な幽霊屋敷。ウィンチェスター銃で儲けた一家が、次々と不幸に見舞われ、残されたサラは、ウィンチェスター銃で死んだ幽霊たちが迷うようにと死ぬまで増改築を続けたという。ちょっと『零〜刺青の聲』の設定とも符合するところがある場所で、一度は行ってみたかった場所だ。そして、新たにアメリカでの霊体験が追加できるかと思ったのだが、残念ながらここに記すようなことは起きなかった。
夜に懐中電灯の明かりを頼りに中に入ってみたが、何も感じるところは無く、複雑で無駄な家の構造に惑わされるのは楽しかったが、霊の存在はあまり感じられなかった。ゴーストハウスというよりミステリーハウスといった方がいい場所だった。


さて、本題に入ろう。
このシリーズのインタビューを受けていて、やはり聞かれるのが、「今回も何かあったんでしょうか…」という点だ。"何か"とは、当然"ありえないこと"ということで、やはり怖いゲームには"ありえないこと"が起きると、毎回期待されているらしい。

その期待を裏切るようだが、今回は、何も起きないようにお祓いに行ってしまった。
前作『零〜紅い蝶〜』では、自宅に"ありえないこと"がおきた。
あれは、かなりこたえた。会社で出る分にはまだいいが、気が抜けきった自宅で出られるとやはり嫌なものだ。
しかも、今作では、一緒に仕事をする会社も増え、その人たちのことも考えると…と思ってお祓いには行った。しかし、結局はまったく効果はなく(なので、どの神社かは明らかにしない)、逆にその日から40度を越える熱を出して寝込んでしまった(私自身が悪霊だという説も流れた)

 


そして、やはり、霊現象はそれとは関係なく起きていたのだった。

まず、声優さんの収録現場で起きたこと。
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訪問者の足音
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どの声優さんかは言わないが、霊感がある方だろうか、とにかく"ありえないこと"が集中した。

まず収録前に
「あの…誰かが扉を叩いてます」
と、しきりに訴える。収録室の扉は、音が漏れないようにかなり頑丈なものだ。強く叩いたところで中に聞こえることなどありえない。しかも、スタッフは全員リスニングルームにいる。誰かがその扉の前に立っていることなどないのだ。
無視して収録を進めようとすると
「さっきからかなり強く叩いてるんですけど、大丈夫ですか?」
とおびえるような声で訴える。
収録ルームで鳴る音はすべて録音される。しかし、ヘッドフォンを通しても、まったくそんな音は聞こえないし、テープにも録音されてないのだった。
続けて収録するうち、
「誰かが天井を歩く音がします。これ、入っちゃってると思うんですけど…」
と、訴えるようになった。もちろん、上の階に誰かいたとして、そんな音が入るような設計ではない。そのうちに、その足音はマイクの周りを回りだしたと言うのだが、やっぱりテープには入ってないし、誰のヘッドフォンからも確認できなかった。

もし入っていればまた喜んで使うのだが、今回はその声優さんにしか聞こえない音だったのだ。

次に、サウンド担当Sの家で起きた、"ありえないこと"。


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ありえない破片
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我が家には知人から貰った古い食器棚があります。
2月5日・・・夜中、ガシャーンという音と共に目が覚めました。
慌てて布団から起きようと手を付いたとたん、指先に鋭い痛みが走りました。
布団を開けて見ると、布団の中に、ガラスの破片が散らばっていました。
一体何が起きたのか、一瞬わかりませんでした。
もちろん、自分で破片を入れた記憶はありません。誰かが布団を開けてガラスの破片を布団の中にまいたとしか思えないのです。
我に返って、先ほどの音の方向に目をやると、はめ込み式のガラス扉の1枚が外れて床に落ちて割れていました。
当然、周りはガラスの破片だらけになってました。
もしかしたら外れやすくなっていたのかも知れません。
でも、肩までスッポリかぶった布団の中まで、割れたガラスだらけになっていたことは説明できません…。
零〜zero〜開発中にも、トイレのガラスが突然割れた事件があったが、あれを上回る"ありえないこと"だ。
また、ある雑誌社の人が、友人に零〜zero〜を貸したところ、その友人は夜中にカタカタという音で目が覚めた。その音がする音を見ると、地震でもないのに、棚がゆれていた。それが借りた零〜zero〜を入れた棚だと気づいた瞬間に怖くなり、結局プレイせずに返したという"ありえないこと"もきいたことがある。これもちょっと符合する事件だ。

トイレのガラス事件といえば、その事件の後にひとつ小さな事件が起きた。

スタッフではないのだが、同じくトイレで国際業務担当Kさんが見た"ありえないこと"。


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ちいさな手形
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まだ零開発班が同じビルにいたとき、女子トイレの壁に手形があったんです。
うっすらと…ちょうど便座に座ったときの顔の高さにありました。
しかも両手。
私の手より小さかったと思います。
踏ん張ったときに手をついたのかなぁ(笑)と思ってましたが、考えてみると、不自然な体勢ですよね。
壁が薄汚れてて、手形がうっすら白く見えてました。
手のところだけ、汚れ薄くなってる感じ。
しばらくの間ありましたよ。
零開発班が別のビルに移ったら消えてました。
小さな手形といえば、私も頻繁に子供の足音を聞いたことがある。たしかに、あれから子供らしい足音をたまに聞いている。仮眠室で眠っていると、ぱたぱたという足音が聞こえ、トイレの扉が開く音がする。そして、またトイレから出て行く音がする。最初は気にとめていなかったが、考えてみると、歩幅がやけに小さい上、こんな煩雑にトイレにではいりするのがおかしい。起きてみてみると、誰もいない。しかも、どうも入った回数と出た回数が合っていないのだ。
どうやら、子供の足音というのを聞いたのは私だけではないらしい。

CGの女性スタッフNも、"ありえないこと"を体験したのだ。

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頻繁に訪れる足音
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女子更衣室のソファで寝ていると、更衣室の前を誰かが通り過ぎる音がします。
その足音は、どうも子供みたいな感じなんです。
それが、何度も聞こえてきて、なかなか眠れなくて。
どうもその足音は、階段と廊下のあいだを行ったり来たりしているみたいなんです。
だいたい、3時過ぎから4時ごろで誰もいないはずなんですけど…。
そんなことが何度もありました。
掃除をする人が5時ごろにくるんですけど、その人が来るとその足音が消えるんですよね。

また、他にも足音を聞いた人がいる。
CGスタッフのTが体験した"ありえないこと"は…


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トイレを走り回る足音
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夜11時ごろのことです。
会社の台所でコーヒーを作っていたら、突然、男子トイレから「パタパタパタ」と歩き回る音がきこえました。
誰もいないはずの暗い、トイレです。聞こえるはずがありません。
その音は、水が滴るにしては大きすぎるし、規則的に「歩いた」にあてはまる音でした。
怖いので走ってフロアにもどっちゃいました。
ぶっちゃけこれがはじめてじゃないです。
聞いたのは全て同じ階のトイレです。

トイレといえば、他にも思い当たることがあった。
CGスタッフのMが体験した"ありえないこと"


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 通り過ぎる影
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ちょっと前になるのですが、変なものを見たんです。
その日は泊まりで作業していたんで朝4時ぐらいだったと思うんですけど、トイレに行ったんですよ。
トイレで手を洗ってる時に何気なく顔を上げ、鏡を見ました。その時です。
鏡越しに見てしまったんですよ。
トイレの扉に縦長の窓がついていますよね。
あそこに赤い影としか言い様がないモノが通り過ぎたのを。。。
アッと思ったんですけどすぐに体は反応しません。
一瞬遅れて扉を開けたんですけど勿論誰もいません。
あと反射か何かと思って周りを探したんですけど赤いものは一切ありませんでした。

このように、ありえないことは今も起きている。他にも細かい話はあるのだが、割愛する。

 


さて、私自身の話に戻したい。

部屋に霊が出るようになって引っ越したわけだが、新築を選んだだけあって、全く出なくなった。

最初は。

しかし、やはり出始めたのである。
それは、奇しくもお祓いに行ったあとのことである…

この体験だけは、誰かの話を聞いたものではなく、本当に自分で体験したものだ。
だから、誇って断言できる。あれは、本当にあったことだ。
しかも、完全に意識がはっきりしている時に起きたことであり、寝ぼけていたり酔っていたりということもない。

また、遭遇してしまったのだ…


お払いに行って、しばらくしたある日の夜だった。
開発も末期に入っていたので、久しぶりに家に帰ってもなかなか眠れない。
しょうがなく深夜番組などをつけて、なんとか眠気が出たかなと思って床に就き、リモコンでテレビを消した瞬間である。

一瞬、部屋がしん、となったと思ったら、耳元で

「バンッ!」

という床を強く叩く音がして目が覚めた。
そして、テレビのリモコンが跳ね上がる音がして、カーペットの上に落ちた。
リモコンが…と、音の方よりもリモコンに目をやろうとした瞬間、目の前に白い棒のようなものがあることに気づいた。

暗い上、メガネをはずしているので、一瞬焦点が合わない。
よくよく見ると、それは腕だった。

白い腕が、私の耳元から垂直に伸びている。痩せていて筋張っているが、おそらくこの腕は男のものだ。ふと耳元に目をずらすと、耳元には力の入った手のひらがぶるぶる震えている。

私の腕は…私は、布団の中で自分の手をこすり合わせた。
やっぱり、ある。

すると、この腕は、誰のものだろう?…
この手をたどっていけば、その持ち主と目が合ってしまうかもしれない…そう考えると、嫌な気もしたが、このぶるぶる震える手がおかれている状況も嫌だ。

どのくらい時間がたったかわからない。思い切って、手の持ち主を確かめようと上を向いた。

腕から先は、無かった。
正確に言うと、次第に半透明になって空中で消えていた。
まるで、私が作っているゲームのキャラクターのようだった。
(ゲームみたいだな…)とちょっとおかしく思った瞬間、その腕はすっと、空中に溶けるように消えていった。

しばらくして猛烈に怖くなり、電気をつける。
テレビのリモコンだけが裏返って転がっていた。

それからしばらくは、電気をつけたまま眠るようになった。

何も起こるはずが無い、新築のアパートで、起こってしまった。
諦めにも似たような感覚があった。

どこにいても、見るときは見るのだ。



それから、部屋の隅からのコツコツという異音には悩まされたが、平穏な日が続いた。
電気も消して眠れるようになった。

開発も大詰め、ゲームのエンディングを最終段階に入ったような時である。
もうひとつの決定的な"ありえないこと"が起こった。

こちらについては、また日をあらためてお話しします。いましばらくお待ちください。

(ディレクター 柴田)