氷雪の絶壁を舐める風が唸り声のように渓谷に響く。
崖の上に姿を現した満月からの冷たい銀色の光、
冷酷な刃物のような光が、生ある者を拒絶する渓谷を鈍色に染め上げる。
カーン、カラーン……。
呪われた鮫島屋敷から鳴り響く鐘の音が、いくつもの死者の魂を鎮魂すらできずに、虚しく、鳴り渡る。
カーン、カラーン……西洋の聖堂を思わせる清い音色に罪はない。
カーン、カラーン……何も知らない者は、この音に心洗われるかもしれない。
ふもとの村では、この鐘の音が鳴り響く時、鮫島屋敷に死が訪れるという。
因縁の弔い鐘であるのに。
カーン、カラーン……。
繰り返される連続事故死という運命を知らずに、探偵、新一新もまた、代議士、鮫島鬼重郎の屋敷の前で、鐘の音に聞き入っていた。
(明日香ちゃんは、ここにいるはずだ!)
一新は『たすけて』というメールを遺したまま消えてしまった、パートナーの京明日香の消息を求めて、東北の山奥深く、この地までやってきたのだ。
冷たい鐘の音と、冬の早い夜の運んでくる寒さが、一新の身に浸みる。ぶるるっと体を震わせて、玄関へと歩を進め……。
「大変だ! 人が死んでる!」
初老の小太りの男が叫びながら、医者のような白衣をひらめかせながら崖を登ってきた。
(まさか、明日香ちゃん!?)
不吉な予感にとらわれた一新は、ためらうことなく初老の男の来た方へと走り始めた。谷底に待ち受ける死へ。
悪魔の仕掛けた連続殺人へと……。
2年の時を経て繰り返される連続事故死の謎……。
滅び行くさだめの旧家の中で蠢く愛憎……。
真の邪悪が、仮面の陰から牙をむく時、閉ざされた渓谷の洋館を舞台に、連続殺人が巻き起こる。
復讐の影、最終章。
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