第四夜 8月5日

−−今回のインタビューでは、零において重要な要素であるサウンドについてお聞きします。

菊地(プロデューサー):
このゲームに限らず、ホラーにとって音はすごく大切な要素だと思ってます。

柴田(ディレクター):
特にこのシリーズは、細かなサウンドにはかなりこだわってるんですけど、
誌面ではなかなか伝わらないんですよね。
まさにプレイしなくてはわからない…

 

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サウンドについて
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−−では、まず今作のサウンドの特徴について教えてください。

柴田:まず、眠りの家では曲らしい曲を排除して、冷たく湿った空気感を出す音にこだわったこと。そのために、曲というよりも環境音のような感じになってます。その代わりに、現実の家に帰るとBGMがなるんです。二つの世界の違いを、音でも出そうと苦労しました。

菊地:まあ、現実のBGMも暗めだけど…

柴田:そして、霊が発する音に2段階あるんです。こちらを認識しているときとしてない時では、音が変わる。螢で隠れている時なんかは特にわかりやすいんですが、隠れていると苦しむような声がだんだん近づいてきて、見つかると「そこにいるのぉ…」ともっと怨念の強い激しい曲になるんです。

菊地:屋敷を探索している時に、「キィッ、キィッ」と金属がこすれる音とか、うめく女の声なんかが聞こえたらちょっと立ち止まってやり過ごした方がいいかもね。

柴田:そこで、その音が目立つように、屋敷内はなるべく環境音っぽい音が流れているんです。じわっじわっと迫ってくる気配の怖さが際立つようになったと思います。


−−そのほかに、ここが聞きどころ!というところを教えてください。

柴田:今回は、子供の霊に本物の子役声優を起用したんですよ。黒葛原 未有(つづらはら みゆう)ちゃんという10歳の子なんですけど、こんな事を言ってはなんですが、しゃべってもらうと本当に怖い! 「しねばよかったのに…」とかささやかれると、びくっとします! 収録している生の声の段階で怖いですから、ゲーム中に聞くと怖さ倍増ですよ。

菊地:怖い怖い言うと怖い子に聞こえるかもしれませんが、普段は、おとなしくて可愛い子なんです。けど、この子演技うまかったね。びっくりしたよ。

柴田:あと、ゲームの中に流れる「鎮メ唄」(しずめうた)という子守唄があるんですが、それを歌ってもらいました。これもうまかった。

菊地:相当練習してきてもらったみたいだったな。

柴田:しかも、怖い。頭から離れない。

菊地:あの唄は怖すぎる…。夜中にふと聞こえる気がするよ…

柴田:今は明かせないけど、この唄は、ただ怖いだけじゃなく、歌詞の意味が後々重要なカギになってくるんですよ。

−−では、このゲームのサウンドを楽しむコツがありましたら、お願いします。

菊地:強くオススメしたいのが、ヘッドフォンでのプレイです。特に、密閉式のヘッドフォンでプレイすると、ぜんぜん違ったプレイ感になると思います。

柴田:このゲームには、聞こえるか聞こえないかわからないような、かすかな音がたくさん入ってます。密閉式のヘッドフォンだと、その"聲"たちが聞こえてきますよ…


−−では、次に「イメージソング」について聞きたいと思います

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イメージソングについて
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−−今回は『零〜刺青の聲〜』のイメージソング『聲』についてお聞きします
   どういう経緯で再び天野月子さんに依頼することになったのでしょうか?

柴田:それは…最初からほぼ決まってましたね。

菊地:前作の『蝶』があまりにもすばらしかったので。
あのエンディングは、今でもゲーム史上最高のマッチングだと自負してます。いや、これはセールストークじゃなくて夜中に上がってきたムービーを見て泣いてしまったよ。

柴田:それは自分で言うとうそ臭いけど…

−−他の歌手になる可能性はなかったのでしょうか?

柴田:じつは、天野月子さん以外の可能性も探って何人か候補を出したんですよ。

菊地:でもいろいろ聞いた結果、やっぱり天野月子さんしかない、という結論になり、お願いすることになりました。

柴田:イメージソングにもいろんな側面があると思うんですが、やっぱり今回もエンディングに合わせたい。
そうすると、あのエンディングに合う歌を作れる人というと天野月子さんしかどうしても出てこなかったので。作品のテイストから決めさせてもらいました。

菊地:まあ、その選択は正しかったわけだが…

柴田:今回の『聲』は、天野月子さんのこれまでの歌のいろんなテイストが織り込まれた、ご馳走責めみたいな曲になってます。せつなく、儚く、それでいて、激しく、力強い。前作の『蝶』を気に入ってくれた人は、ぜひ聞いてみてください。

菊地:実は俺は『蝶』のイメージがあったから最初は戸惑ったんだけど、数回聞いたら「これしかない!」と思うようになったよ。そして、今回もエンディングとバッチリあってるんだよね。また夜中にムービーが上がってきた時に泣いてしまったよ…

柴田:だから自分で言うと嘘っぽいって…

菊地:いや、本当だって。プレイヤーの方々には、ぜひエンディングまでたどり着いて欲しいですね。

−−イメージソングを作るにあたって、天野月子さんとどのようなやりとりがあったのでしょうか

菊地:まず、天野月子さんにストーリーやビジュアルの資料をお渡しして、イメージを膨らませてもらいました。
それだけでは足りないと思って、柴田のほうでゲーム全体のメッセージやエンディングの意味なんかを切々と説明した文章を作ってたんです。私はラブレターと呼んでましたが。

柴田:まあ、似たようなものです(笑)。でも、それをお渡しする前に「実は、もう出来てます」と言われてびっくりしたんですよ。

菊地:あれは早かったね。

柴田:そのためかどうかはわかりませんが、ゲームのエンディングで語られるメッセージと天野月子さんの『聲』の歌詞の意味は100%合致したものではありません。
でも、それでいいと思います。これは、このゲームのテーマに対する天野月子さんなりの解答であり、ゲームの最後で語られる『聲』と天野月子さんの『聲』をあわせて考えた時に、より深いメッセージが浮かび上がってくる。そう思います。
  エンディングを見た方は、ぜひ『聲』の歌詞の方にも目を通して欲しいですね。

菊地:『刺青の聲』のエンディングとイメージソング『聲』は、同じテーマで同じ目的を違うアプローチで表現しています。僕の印象では、どっちも正しい。そして2つを足すとちょうど“零”になっています。さすがにこの場所でエンディングについては明かせませんが、いつかどこかでじっくりと語ってみたいですね。


−−ありがとうございました。次は「ゲームシステム」についてお話を伺おうと思います。
   お疲れさまでした。