某月/某日(火)
妙に寝付けない。あれ以来、何かありそうな時は、うっすらと予感みたいなものが感じられるようになった。
鼻や頬のあたりが妙に冷たくなるのだ。そして、決まって部屋の隅のなんでもない暗闇が、すごく重く存在感をもって迫ってくる。
この日も、寝ようと無理やり目を閉じていると冷たい空気がふわっと流れてくるのを感じた。
もしかして…と何気に目を開けると、それは、いたのだった。
私のちょうど1mくらい真上に、白い服を着た女が、宙に浮いて見下ろしていた。髪の毛が下のほうに垂れ下がっている。
顔はちょうど暗がり(霊にそんなものはないかもしれないが)になっていて見えない。
特徴的なのはその浮いているポーズで、両腕を水平に伸ばし、肘から曲げていた。左手は、上に。右手は下に。
昔教科書で見た「踊るはにわ」みたいなポーズだった。このポーズに意味はないと思うのだが…
そのときの私の反応は、後から考えると情けないものだった。
おもわず、
「あれっ?」
とちょっと間抜けなことばを口にしてしまった。
その後で、その女はすっと消えていった。 |