初めてその女が出た日の日記が残してある。

その日、2002年 某月/某日(金)は、夜の2時半頃に床についたと思う。
その夜はマグノリアという3時間ほどある長い映画を借りていて、それを見たばかりだったせいか、あれやこれや反芻し、布団の中に入ってもしばらく寝付けないでいた。
深く布団に潜り込んで無理に目を閉じていても、眠気は全くやってこない。
その日は特に冷え込んでいて、顔がひりひりするくらい冷たかった。

あまりにも眠れなくて、ふと目を開けると、目の前に白くぼんやり光る棒のようなものが浮いていた。

最初はそれがなんだかわからなかったが、それがすーっと近づいてくると、ようやく形がはっきりと見えてきた。
それは、横から伸びている右手だった。右手が、手のひらをこちらに向けて、私の目を覆うように迫ってきていたのだ。

自分の両手は布団の中にちゃんとある。ということは…
「うああぁぁぁ!」(自分でも笑えるくらい、焦った声だった)
その手から逃れようと、とっさに布団から跳ね起き、部屋から流し台の方に走る。(我ながら素晴らしい反応速度!)
流し台の方に避難し、おそるおそる部屋をのぞき込んでみると、自分が寝ていた場所に、ぼんやりと白く光るものが見える。
目を凝らすと、細身のセミロングの女性が、私の枕に顔を突っ伏して、やや体を横にして横たわっている。
私は眼鏡を外して裸眼だったせいか、その女がぼんやりとしていたせいか、白い和服を着ているようにも、白いワンピースのようにも見えた。

一体これは何なんだ?
鼻の奥がツーンと痛くなり、じっとりと汗がにじんでくる。

その女は布団につっぷしたまま、全く動こうとしない。
いつか起き上がってこちらに振り向くかもしれない…そう思いながら、じっとその女を見つめていた。
10秒…20秒…もしかして、1分くらいそのまま、対峙していたかもしれない。

突然のことに頭の中が真っ白になっていたのだが、ふとわれに帰った。
そうだ、電灯をつければいいんだ。

電灯のスイッチに手を伸ばし、オンにする…が、反応しない。
カチ、カチとスイッチを入れる音がむなしく響く中、枕につっぷした女は動かないままだ。
(ここだけは、理由はわからない。たとえその女が幻だったとしても、このことだけは説明できない。 余談だが、玄関、部屋の電灯はつかないが、なぜかトイレの電灯はついた。)

ここまで追いつめられると人間はよくわからない行動をとるもので、
「なんなんだよ! びびらせんじゃねぇよ!」
と、逆ギレして激しくつっこむと、白い女は周囲に溶けるように消えていった。

すると、なぜか部屋の電灯が付くようになったが、もちろん、そこには誰もいない。
痛いような静かさだった。

今回は、たまたま目を開けたから気づいたが、あのとき目を開けなかったらどうなっていただろう? 手がすーっとやってきて、それから…そう考えると、この部屋で眠ることが怖くなった。

ひところ、私の部屋で女性の髪の毛が落ちていたり、鞄の中に入っているという現象があったが、その女だろうか?
もしかすると、今まで気づかなかっただけで、いつもその女はそばにいたのかもしれない…

とにかく、この事を誰かに知らせないと…
携帯を取ると、時計は、3:27 をさしていた。
この時間に起きている人間はおそらくいない。しかも、突然こんな事を話して喜ぶ人間はあまりいないだろう。
しかし、結局はスタッフのひとりにかけてみた。留守番電話に繋がるだけだったが…

その後、セガのShinobiをしたり、取りためてあったビデオを見たり、ネットを見たりして朝まで過ごした。

それにしも、こんなに意識がハッキリしているときに"ありえないもの"をズバリみてしまったというのは初めてだ。
今回は、とっさによけられるほど意識は鮮明だったし、本当に眼の前で目撃した。
しかも一瞬ではなく、その女を違う角度から見ることもできた。

重要なのは、今回の事件で収穫があったことだ。
まず、霊に触れたときの感触。手から逃げるときに、頬がちょっと触れてしまったのだが、その時に感触を得ることが出来た。
それは、山の上をドライブしているときに雲の中に入ったときのような、質量を持った水蒸気が溜まっているものに触れたような感触だった。

次に、音だ。
手に触れられた時に、細く甲高い音が聞こえてきた。キーンという高周波に、声のような呼吸が混じったものだった。

後から気づいたのだが、女がつっぷして寝ているときにデジカメで撮っておけば良かった!

(そして、次の日の日記へ…)

 

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