ディレクター/柴田誠

「体験記その一」


今回の『零〜紅い蝶〜』を作るに当たって、一つ思い出した体験があるので、紹介します。

私が高校生の頃だったと思う。
その日、うちのおじいちゃんが、頭から血を流しながら家に帰ってきた。
どうやら、たそがれて視界が悪くなった時分に、
家の裏手の川に落ちてしまったらしい。
そこから自力で這い上がり、家の中まで戻って来たのだ。
家の中はパニック状態となり、急な事態に変に醒めていた私が救急車を呼ぶことになった。

その夜、家はいつもにもまして、しんとしていた。
私は学生らしく予習をしていたのだが、夜の10時頃だったろうか、
階段に足をかける、「みしっ」という音を聞いた。
私の部屋は家の二階にあり、妹の部屋に隣接している。
もしかして、誰か妹の部屋に用があるのかもしれない。
そう思ってしばらく勉強に集中することにした。

みしっ。

何度かその足音を聞いて気づいたのだが、
その人は一段を2分くらいかけてのぼっているらしいのだ。
ああ、おばあちゃんが寂しがって2階に来ようとしているのかもしれない…
となるべく気にしないようにした。
しかし、その足音はあまりにも遅く、何かが息を潜めて忍び寄ってきていることだけは背中にじんじんと感じられた。
その足音は、ゆっくりゆっくりやってきて、妹の部屋を通り過ぎ、私の部屋の扉の前で止まった。

扉の前に、何か、いる。

音は何もないが、その気配はおばあちゃんではないのは確かに感じられた。
入ってくるのか、入ってこないのか…
扉を見つめたまま、体は痺れ、頭の中には、きーんと甲高い音が響いていた。
我慢できなくなった私は、ゆっくり扉に近づいていき、もうこっちから開けようとドアノブに手をかけようとした。
その瞬間、耳元で大きく、

は ぁ は ぁ は ぁ

と荒い息遣いが聞こえたのだった。
私は驚き、とっさに手を離した。

たぶん、人間じゃない。

5分、10分、扉一枚を隔てて、その"何か"と私は固まったままだ。
この部屋からはここしか出口はない。やっぱり開けるしかない…私は意を決してゆっくりとドアを開いた。

…だれもいない。夜の冷たい空気が入ってくるだけだ。確かに、ここに誰か立っていたのに…

その後、妹にも聞いてみたが、だれも来なかったといっていた。
いまだにあれが何だったのかはわからない。


この体験を思い出して、『零〜紅い蝶〜』の中ではそれと似たシチュエーションを作りました。
もちろん、ゲームで起きることは、この体験と違いますが、今でも体が憶えているあの痺れは、うまく再現できたと思います。

どのシーンかは、ぜひゲームの方で確認してみてください。

 

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