囁(ささや)く闇

日本家屋は独特の魅力を持った空間だ。

堅牢な西洋建築とは対照的に、木や障子といった脆(もろ)い素材で仕切られていて、緩やかに外の空間とつながっている。風通しも良く、障子越しにやわらかな光が入りこんでくる。 一方、物陰も多い。

屏風の裏側、縁の下、天井の折り重った梁の上、格子の向こうなど、至るところに、あたたかな闇が息づいている。
そこに佇んでいると、じわじわと身体に染みこんでくる、あたたかい闇。

ふと目を向けると、その空間に何かが潜んでいるような気がしてならないのは、日本家屋が木材を初めとする"生きた素材"で作られていて、
そこに暮らす者たちと共に呼吸し、共に時を刻んできたからなのだろうか?

その所為か、木で造られた日本家屋には、そこにいた人の想いが染みこんでいるように思う。
ささやかな喜びも、小さな感傷も、忌まわしい思い出も、すべて。
その闇に身を浸していると、今は亡き者達の記憶が、密かに囁きかけてくる気がする。

このゲームでは、部屋に残る様々な痕が、過去の出来事を想像できるような部屋作りに心がけた。
隅々まで部屋を探索し、そこで起こった事に思いを巡らせながら、闇からの囁きに耳を傾けて欲しい。

柴田誠 (ディレクター)