『零〜zero〜』アンソロジー 第二回 『深紅と真冬』
担当:長谷川仁 (CG班) 柴田誠 (ディレクター)

今までにないゲーム…それにふさわしいキャラクターを
深紅はこうして誕生した

---まず、深紅のイメージに関してですが。
長谷川「兄を追って廃墟となった日本家屋で霊と戦う少女。しかもカメラで…。
それは一体どんなキャラだ、ということで、最初はまるっきりイメージが沸きませんでした。
剣を持っていたり、魔法を使ったりすればまだデザインしようがあったんですけど、
あまり前例となるゲームがありませんから。」
---深紅というキャラクターはどの段階で決まったのですか?
柴田「ゲームの要素として、日本家屋、霊、カメラというのはすぐに決まったのですが、
主人公は一番最後まであいまいでした。
毎日の夢の中では、主観視点で氷室邸を訪れているので、
主人公が見えなかったのですよ。
他の部分はハッキリと見えたので楽だったのですが…」
---では開発当初は、主人公が決まっていなかった?
柴田「ええ、常に画面に出ているキャラクターですし、
暗い部屋の中で一人で映っている事が多いので、 納得がいくまで
作りつづけようと思っていました。」
---深紅のデザインに関しては?
長谷川「まずディレクターのイメージを文章資料でもらって、そこからデザインしました。
あまりにも現実離れしたデザインだと恐怖が薄れてしまうので、リアルさは必要。
でもゲームなので、あまりにもリアルに徹すると地味なのでパッとしない。
そのバランスに苦労しました。 」

キャラクター基本思想
主人公概要より
前提…主人公には霊感があり、他人には見えないものが見える。

感受性が鋭い…周囲の心の動きに敏感。
怒りや憎しみ、悲しみのなど、 マイナスの感情にさらされると、それを人一倍感じてしまう。
何度見ても霊を見慣れないのは、霊が憎しみや悲しみといった感情の塊であり、
それがダイレクトに心に伝わってくるため。 

霊感を持っていることについて
他人と違うものが見えることで、異質な人間だと思われるのが怖い。
また、本心で友人と交われないことに寂しさを感じている。
その結果、言い出したいけど言い出せないような、
どこかもどかしい感じをクラスメイトに与えている。

兄に対して…同じように霊感を持つ兄は、自分と同じものを見てくれる理解者であり、
心を開ける唯一の存在。両親が死んでからは、父親代わりであり、母親代わりでもあった。

モデリングに際して−身体的特徴−
主人公概要より

身体…主人公が好戦的なキャラクターでないことを示すために、体の線はスレンダーに。

目を印象的に…霊感が強いことを示すため、濡れていて黒く大きな瞳にする。
ここで、はかなそうな感じが出るのがベスト。
主人公なので、まなざしにどこか芯のつよさを感じさせるように。

髪飾りに特徴をだす…霊感の強さをあらわすために、髪は長いという設定。
背中まである。 しかし、霊感を自らが嫌っていて隠しているため、
髪の毛を赤い紐状の髪飾りで縛っている。
できれば、髪型は縛った結果、左右非対称になるようにして欲しい。
(鏡を使った演出で、判りやすくするため)

服装の配色…ゲームの設定としては、時代は1986年くらいだが、
それは携帯電話が無かった時の現代にしたいだけだから、
あんまりその当時の流行は気にしないで欲しい。
あと、ゲームの舞台となる季節は、服装もシックなものになってくる初秋。
暗い館に溶け込まない色使いにしたいが、あまり明るい色は避けたい。
できれば、白と黒がはっきりわかれているコントラストの強い配色にしたい。




深紅の衣装に隠された秘密
長谷川「身体のラインを細くというのは「その方が霊感が強く見える」と
ディレクターに言われて、意識してデザインしたところです。」
柴田「しかも、幼さが残っている方が霊感が強いというイメージがありますね。
深紅は実際の設定年齢よりも幼く見えるように作りました。
また、ゲームの中で明らかになるのですが、母親に関してあるトラウマを持っているので、
どことなく冥(くら)い影があるキャラクターにしたいと思っていました。」
---髪飾りの辺りはだいぶ修正されたようですが?
柴田「結局髪型は左右対象になりました。
いや、鏡を見た時にわかりやすいと思ったのですが、
結局変な髪形になってしまうことがわかっただけでした。企画倒れでした。」



長谷川「髪飾りは、初期段階では重要なアクセサリーだったんです。
母親の形見であるだけでなく、祖先代々の持ち物であるという。
それが霊力を縛るという象徴的なアイテムになっていて。」
---では、この髪飾りをめぐるエピソードも?
柴田「ええ、本編のシナリオに組み込むはずでした。
残念ながら話が膨らみすぎるので、そこまで触れられませんでした。」
---あとはやはり、首につけているチョーカーが気になりますが。
柴田「兄とお揃いの装身具が、なにか欲しかったので注文しました。」
長谷川「バストアップのカットで、わかるものが欲しいということでしたね。」
柴田「ゲームをプレイして戴ければわかるのですが、首に黒いラインが入っているのは…
ストーリー的にも深い意味があるのです。」


---深紅の衣装というのは、どのように決まっていったのですか?
長谷川「暗い中で映えるよう、コントラストを強くするというのは決まっていました。
上から髪の毛の黒、顔の白、ワンポイントの胸元の赤、白いジャケット、黒いスカート…
という感じで、白、黒、白、黒…と配色しました。」


柴田「最初は私の好みから、全身暗い色の服だったのですが、
暗い画面ではどこにいるかわからなくなってしまいましてね。」
長谷川「あのデザインに至るまでに、2つのバージョンが存在しました。
柴田「一つは、ちょっと大正ロマン風ゴシック衣装。
時代設定が製品版よりも古い、という事を想定していました。
全身藍色のビロード地の服で、ロングスカート。
下に着ているインナーも、ビロード地で赤色。
レースとか紐で生地の縁(ふち)が装飾されていました。
もう一つは、今の衣装に近い形で、白と黒のコントラストを重視して、
赤いワンポイントというのも今と同じですが、もっと簡素なものでした。」
---そして、今の衣装に落ち着いた?
柴田「ええ、 画面に映えるデザインということで今のものになりました。」
長谷川「実はこのほかにも身体的な特徴に関して、
深紅には細かく決まっていた要素があるのですが…。
柴田「その部分は、実際にゲームで感じ取ってもらえればと思います。」
---真冬に関しては?
長谷川「深紅と同じく、白と黒のコントラストがくっきりとしたものということでした。」
柴田「深紅の服と同じメーカーがつくっている服、という設定です。」


主人公の名前について

主人公概要より
雛咲 深紅(ひなさき みく)
主人公は、人間の体を引き裂く呪いをかけられており、
その呪いが成し遂げられると、主人公の柔らかい体が裂かれるというイメージから、
名字を「雛咲(ヒナサキ)」とした。
また、主人公に特徴的な色が欲しかったので、それを深紅に定めた。
そこから、名前をそのまんま「深紅(みく)」とした。
キャラクターカラーの深紅を、髪飾りやアクセサリーなどに効果的に使用し、
モノクロのゲーム画面に、深紅だけがぼんやり光るように残したい。
血のような暗い赤は、十分に画面映えするだろう。


長谷川「デザインは難航していましたが、
主人公の名前は、初期段階で、すでに決まってましたね。」
柴田「最初は漢字が読みづらいということで、スタッフも慣れなかったのですが、
私がしつこく呼んでいてようやく定着しました。
まあ、ネーミングはコンセプトカラーそのままなんですけど。」
---『モノクロのゲーム画面に』とあるのは?
長谷川「そういえば、最初は全編モノクロという企画でしたね。」
柴田「実際、そういうバージョンも最初の頃はありました。
ゲーム内のフラッシュバックで出てくる、コントラストの強いモノクロの映像で
ずっと進む、というものを想像してもらえれば良いと思います。」
---真冬で進行する序章のみ、モノクロとなっているようですが?

柴田「フラッシュバックに関してはすべて過去の出来事なので、モノクロとなっています。
真冬を操作する序章に関しても、主人公の深紅にとっては『過去の出来事』なので、
モノクロとなっています。 」
---全編モノクロだと、かなり雰囲気も違うものだったのではないでしょうか?
柴田「そのときのバージョンは、作った本人がプレイしていても、物凄く怖かったですね。
処理落ちもしていたせいか、モーションも入っていない霊がガクガクやってくるんですけど、
ファインダーを覗いていると、尋常じゃなく恐ろしいんですよ。
このままで本当に発売できるのかと心配になりました。」
長谷川「あのときのバージョンは自分が動かしている深紅が一番怖かったですよ。」
柴田「結局、プレイしていてすごく疲れるので、売り物にはなりませんでしたね。


雛咲家の家族構成

父(真人・まさと)
研究一筋の考古学者。
遺跡調査のため、一年中全国を飛びまわっており、めったに家に帰ってこない。
研究中に事故死。  

母(深雪・みゆき)
学生結婚で真人と結ばれる。
かつては真人の助手をしており、遺跡や土器を撮影する仕事をしていた。
結婚してからは家事に専念。
子供に愛情を注ぐが、家庭を顧みない夫のために次第に心が蝕まれていく。
だれにでも優しい反面、神経が細く、体が弱い。
幼い頃に霊能力があったが、小学校を卒業してからはほとんど無くなっていた。
霊感のために異端視されて苦労したため、子供たちに遺伝していることに心を痛め、
誰にも話さないように言い聞かせる。
心を病み始めてからは、写真を趣味にしていた。
この頃、深雪の霊力が次第に復活し、奇妙な写真を取るようになる。
同時に、自らの霊能力にさいなまれていく。
ある事件で他界。
そのときから深紅の霊能力が大きく開花することになる。  

兄(真冬・まふゆ)
色白で細身の青年。 優しさと外見は母親似。
真人と深雪の初めての子供なので、父から一文字とり、
母親のイメージも受け継いで、この名前になった。
深紅の能力を知っている理解者であり、心を許せるただ一人の人間である。
深紅には、心を病む前の優しかった母親を思わせるので、両親が亡くなってからは
母親と父親を兼ねたような重要な存在となっている。
コンセプトカラーは白。 23歳。
大学を卒業後、バイトしていた出版社に就職。
情報雑誌のやや季節外れの ホラー特集で初めて小さな取材を任され、
今回のゲームの舞台となる村を訪れる。


長谷川「細かいところは、ゲーム中では語られていませんね。」
柴田「衣装の部分でも触れましたが、兄は、暗い氷室邸にぼんやりと浮かぶ
白い影というイメージでした。
デザインより、頭の中にある真冬の雰囲気を再現したかった。
深紅と同じく霊能力を隠しているので、まなざしは、冥(くら)いものを秘めていて、
かつ凛としたたたずまいを出すようにと。 」
---兄と妹というシチュエーションは以前にも?
柴田「よく考えると影牢もそうですね。
しかし、なんだかそうしなくてはならない気がして…
とにかく、真冬は強さとやさしさを兼ね備えたキャラクターにしたかった。
それがストーリー上重要な意味を持ってくるのは、プレイしてのお楽しみということで。 」
 
 


『零〜zero〜』ギャラリー


画像をクリックすると、大きな画面でご覧になれます

 



<TOP>